歯周病 | 糖尿病の合併症
糖尿病が原因の歯周病とは?
「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン(※注1)」によると、糖尿病患者の多くが歯周病を発症しているようです。糖尿病患者と非糖尿病者の6年間の歯周病の状態を調べたところ、糖尿病患者は非糖尿病者と比べて2.6倍もの発症率となりました。
さらに、台湾での歯周病健診受診者を調べると、2型糖尿病患者の歯周病有病率は通常よりも10%高く、同年代と比べて歯の喪失率も高いと発覚しました。
世界各国の検証・調査で、糖尿病と歯周病の関連性は高いとされており、糖尿病になると歯周病を合併症として発症しやすく、歯の喪失につながるといわれています。
糖尿病で歯周病が増える理由
ではなぜ、糖尿病になると歯周病を発症しやすいのでしょうか?その理由を調査しました。
歯周病は、歯周病菌が口の中で繁殖することで発症します。通常であれば、唾液や歯磨きによって排除できるのですが、糖尿病になると口内の環境が菌にとって住みやすい状態となるため、歯周病にかかりやすくなるのです。
まず、血糖値が高くなると口の中が乾燥します。そして、血液中にある糖分を体の外に排出しようとして尿をたくさん作るため、体の水分が尿として出ていき乾燥した状態に。
さらに、血糖値が高い状態だと細菌やウイルスを排除してくれる白血球の働きが低下してしまいます。傷ついた細胞を修復する機能も低下するため、歯周病によって壊された歯や歯肉が修正されず進行が早まってしまうのです。
また、高血糖になっている状態では、血液をもとに作られている唾液などの口腔内の液体の糖分も増えていることが考えられます。この状況下では、歯周病菌が繁殖しやすいといえるでしょう。
肥満も歯周病を悪化させる
糖尿病に罹患している人の中には、肥満体型の人が少なくありません。そして、肥満は余計な脂肪をため込んでいる状態です。脂肪組織からは、歯周組織に炎症を生じさせるなどして歯周病のリスクを増大させる物質として考えられている腫瘍壊死因子αが分泌されます。そのため、脂肪がより多い肥満は歯周病を悪化させる体型だといわれています。
歯周病が糖尿病に与える影響は?
糖尿病が歯周病を促進するだけでなく、歯周病は糖尿病を進行させることがあります。歯周病菌は歯肉から血液中に入り込むと、腫瘍壊死因子αの濃度を上昇させます。
腫瘍壊死因子αは、血糖値を下げるインスリンを作りにくくする働きを持つものです。インスリンは、血液中の糖分をエネルギーに変えて血糖値を下げるホルモンなので、インスリンの量が減ると血糖値は上がっています。
歯周病が進行すると、このように糖尿病がどんどん悪化していくのです。糖尿病が悪化すると口内が乾燥して、さらに歯周病菌が住みやすい環境になる、という悪循環が生まれます。この悪循環を断つためにも、糖尿病と歯周病の両方へのアプローチが必要なのです。
歯周ポケットから全身へ
歯周病菌などが血管に入り込むことが容易になれば、糖尿病の進行リスクが増大することになります。そして、歯周病では、歯肉炎から歯周炎へと進行するにしたがい、歯と歯肉の境目にある歯周ポケットが深くなっていきます。炎症の範囲が広がることは、歯周病菌などの危険物質が血管を通じて全身へ送り込まれるリスクを高めている状態です。
歯周病治療による糖尿病の改善
上記のように、歯周病は糖尿病悪化につながるため、歯周病を治療することが糖尿病改善のひとつの手段となります。実際、「歯周病を治療することで血糖値が安定してきた」という報告(※注2)もあり、歯周病による悪影響を防ぐことで、糖尿病の改善が見られているようです。食生活の改善やインスリン投与での改善が見られない場合は、歯周病治療もひとつの手段として考えましょう。
糖尿病のコントロールも重要
注意すべきは、糖尿病のコントロールがうまくいっていないケースでは、歯周病の治療を行った後に、再び歯周ポケットができていることが多いという点です。(※注3)つまり、糖尿病の要因が歯周病だけとはいえないケースでは、同時進行で糖尿病の治療と歯周病の治療を行うべきだといえます。
歯周病の治療法
一般に、歯周病の治療は日常のブラッシングに加え、歯科クリニックで歯石を除去するスケーリングや、汚染部位の清掃と歯根面をきれいにするルートプレーニングが行われます。また、必要に応じて行われるのが抜歯や歯肉の切除、薬物の投与です。
歯周病の治療においても、重症化するほど複雑化します。とくに、病状と治療によって噛み合わせにまで影響することもあるなど、対処が遅くなってよいことはありません。糖尿病への悪影響も考えれば、できるだけ早期のうちに対処することが重要です。
糖尿病と歯周病、どちらも気にしないといけないのは大変ですが、相乗効果で改善へ繋がる可能性もあるので、一度歯周病の治療を受けてみるのもよいでしょう。
※注1:『糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン』[pdf]
※注2:『歯周病と全身の状態 糖尿病と歯周病の双方向性|e-ヘルスネット 情報提供』
※注3:『歯周病と糖尿病|一般社団法人 日本糖尿病学会』[pdf]