インスリンの分泌を正常に保つのが大事!糖尿病を予防する体内ホルモン
糖尿病とインスリンの関係
人体の中で生成される、血糖値のバランスを整える働きを持つホルモンはただひとつ。それがインスリンです。インスリンは、血液中の糖を臓器に取り込ませたり、肝臓や筋肉で糖が消費されるのを助けたりするホルモンです。
糖尿病患者、あるいはその予備軍の人の体内では、このインスリンの分泌が低下しています。インスリンによる糖の消費が減っているため、血糖値は上がる一方…。このため、糖尿病治療の際は、インスリン分泌を促進させる薬を処方されたり、インスリン製剤を注射する治療が行われるのです。
このように、糖尿病とインスリンの因果関係は深く、糖尿病を予防するためにはインスリンの働きを活性化させることが大切となってきます。
インスリンの働きを強めるホルモン
アディポネクチン
血糖値のバランスを整えることができるホルモンはインスリンだけです。であれば、経口投与や注射で増やせばいいと思うかもしれません。しかし、経口投与ではインスリンは増えませんし、注射は糖尿病患者でなければ低血糖などの弊害がでてしまいます。つまり、インスリンの分泌を増やすには間接的な方法しかないのです。
近年、インスリンの分泌を増やしたり、インスリンの働きをサポートするホルモンが存在していることがわかってきました。そのひとつが、「アディポネクチン」です。
アディポネクチンとは、体内に存在するホルモンなのですが、糖尿病に対するその効果には大きな注目が集まっています。東京大学の門脇教授の研究では、アディポネクチンの糖尿病予防効果が証明されましたし(※注1)、多くの研究者がアディポネクチンの働きを解き明かそうとしています。
アディポネクチンは糖尿病だけでなく、高血圧や動脈硬化を予防する「奇跡のホルモン」としても注目されており、現在様々な研究者がその効果を研究しています。
アディポネクチンは、一体どのようなかたちでインスリンの働きをサポートしていくのか、どのような効果があるのかを当サイトでも調査していますので、ぜひ読んでみてください。
アディポネクチンに関する参考サイト・参考文献
※注1:『第128回日本医学会シンポジウム:アディポネクチンと糖尿病・心血管病の分子メカニズム』
オステオカルシン
インスリンの働きをサポートするホルモンは、アディポネクチンだけではありません。「オステオカルシン」にも同様の働きがあることが、近年の研究で明らかになってきています。
オステオカルシンは骨を形成する細胞である、骨芽細胞が分泌するタンパク質です。九州大学の研究により、オステオカルシンがインスリンの分泌を促進することが明らかになっています(※注1)。
もともとの分泌量はあまり多くはないオステオカルシンですが、その働きは多岐に渡っており、糖尿病治療以外の医療現場からも、大きな注目を集めています。その詳細についてまとめたページを設けていますので、チェックしてみてください。
オステオカルシンに関する参考サイト・参考文献
※注1:『日薬理誌:オステオカルシンとインスリン分泌』
インクレチン
インクレチンとは、食事をとった際に小腸などから分泌され、膵臓を刺激してインスリンの分泌を促すホルモンのことです。インクレチンにはGIPとGLP-1の2種類があり、GLP-1が2型糖尿病に効果を発揮すると言われています。
1型糖尿病はインスリン依存型とも呼ばれており、自己免疫疾患などが原因でインスリン分泌細胞が破壊されるために、インスリンの自己注射が必要になります。
2型糖尿病はインスリン非依存型と呼ばれ、遺伝的要因に加えて運動不足などの不摂生が重なって発症します。糖尿病患者の多くがこの2型糖尿病と言われ、インクレチンはこの2型糖尿病の治療薬として使われているのです。(※注1)
また、インクレチンはインスリンの分泌を促進し、血糖値をあげるホルモン「グルカゴン」の分泌を抑制する力があります。インクレチンにはGLP-1とGIPという2種類があり、GLP-1はインスリン分泌の促進に、GIPはグルカゴンの抑制にとくに効果が期待されています。(※注2)
魚を食べるとGLP-1が多く分泌され、肉を食べるとGIPの分泌が増えるという研究結果もあります。こちらでは、インクレチンの作用やインクレチンを増やすためのポイントをご紹介します。
インクレチンに関する参考サイト・参考文献
※注1:『月刊糖尿病2010/6:日本人糖尿病における インクレチン治療の有効性』
※注2:『昭和医会誌・第70巻第1号:糖尿病治療を変える新たな糖尿病薬インクレチン』
GLP-1
DPP-4阻害薬を使うことでGLP-1の効果が高まる
GLP-1はインスリンの分泌を促す他にも食欲を抑えたり、インスリンが分泌される膵臓のβ細胞の増殖を促したりする働きがあります。
ですが、GLP-1はDPP-4と呼ばれる酵素によって活性を失ってしまいます。この分解酵素を阻害し、GLP-1の働きを高める内服薬(DPP-4阻害薬)が開発されています。
DPP-4阻害薬によりGLP-1の血中濃度が高まると、インスリンの分泌が増強され血糖値を下げていきます。DPP-4阻害薬は副作用も少ないので糖尿病の新しい治療薬として期待されています。。(※注1)
その他にも食事の影響を受けないため、食前・食後のどちらの投与でもよいことや、血糖コントロール改善に伴う体重増加のリスクが低いこともDPP-4阻害薬の利点です。ただ、高齢の場合や腎機能が低下している場合は投与が受けられない場合があります。
DPP-4に関する参考サイト・参考文献
※注1:『DPP-4 および DPP-4 阻害薬に関する臨床的・基礎的研究』
GLP-1受容体作動薬もGLP-1の効果を高める
GLP-1の効果を高める注射薬としてGLP-1受容体作動薬があります。これを打つことで、長時間にわたりGLP-1の働きが維持されます。(※注1)
こちらの薬も血糖値が高い時にだけインスリンの分泌を促すため、単独の使用では低血糖になりにくいとされていますが、胃腸障害などの副作用がみられることがあるので注意が必要です。
単独使用では低血糖になりにくいとされているこれらの薬ですが、スルホニルウレア剤と併用した場合は重篤な低血糖を引き起こす場合があるので注意が必要です。
GLP-1受容体作動薬に関する参考サイト・参考文献
※注1:『日本農村医学会雑誌65(2), 273-278, 2016:インスリンとGLP 1受容体作動薬の併用で,インスリン減量と早期の血糖平坦化の達成を実現できたと考えられCGMで確認できた1例』
血糖値を上げてしまう可能性があるホルモン
グルカゴン
グルカゴンは、血糖値を上げる働きのあるホルモンです。膵臓で作り出され、肝臓に作用してブドウ糖の産生を増やします。
糖尿病になる原因としてよく知られているのは、インスリンの分泌が低下し、血糖値がコントロールできなくなること。
しかし、それと同じくらい現代医学で注目されている要因が「グルカゴンの分泌調節が異常をきたし高血糖になる」というものです。
グルカゴン受容体は身体のさまざまな器官、例えば心臓や脳、腎臓、消化器官、脂肪組織にあります。通常であれば、グルカゴンは空腹の際にグリコーゲンを分解し、その結果血糖値が適度に上昇。
一方、糖尿病患者には血漿(けっしょう)※グルカゴン濃度の上昇が見られ、抑制不全も観察されています。これが異常な血糖値の上昇につながるというメカニズムです。
インスリンは通常、食後に肝臓の糖吸収をサポートし、血糖値が上昇しないよう適度な状態を保ってくれます。本来であれば、グルカゴンはこのようなインスリンの作用と拮抗するようにして働くわけです。
しかし、グルカゴンが過度に分泌された状態下では、食後もさらにグルカゴンの分泌が増加。高血糖の状態に陥ってしまうのです。(※注1)
※血漿…血液から赤血球、白血球、血小板を除いた液体成分のこと
グルカゴンに関する参考サイト・参考文献
※注1:『(PDF)四條畷学園大学リハビリテーション学部紀要・第7号2011:グルカゴンと糖尿病[PDF]』
ソマトスタチン
ソマトスタチンは膵臓や脳の視床下部から分泌されるホルモンです。「成長ホルモン分泌抑制ホルモン」とも呼ばれ、さまざまなホルモンの働きを抑制する作用があります。
血糖値を下げるインスリンにも作用することで、インスリンが十分な血糖値の抑制効果を発揮できず、結果的に血糖値が上昇してしまうことがあるのです。
ソマトスタチンは通常、血糖値を上昇させるホルモンであるグルカゴンの分泌も抑制します。血糖値を上げるインスリン、血糖値を下げるグルカゴン、両方に作用することで血糖値が適正に保たれるように働くのです。
しかし、この働きが乱れるとインスリンの抑制が過度に行われたり、グルカゴンが十分抑制できず、糖尿病の原因となってしまいます。
ソマトスタチンに関する参考サイト・参考文献
『国立国際医療研究センター・糖尿病情報センター:ホルモンの病気と糖尿病』
コルチゾール
コルチゾールは副腎が分泌するホルモンの一つで、炭水化物や脂肪、タンパク質の代謝を抑制します。主にストレスによって分泌量が増え、過度に分泌されると血圧や血糖値を上昇させます。耐糖能異常(糖尿病とは言えないものの、血糖値が高い状態)を引き起こすケースも多いです。
また顔が丸くなったり、腹部が肥満になるといった影響が見られる場合も。
コルチゾールに関する参考サイト・参考文献
『国立国際医療研究センター・糖尿病情報センター:ホルモンの病気と糖尿病』
成長ホルモン
身長を伸ばし身体を成長させる作用がある成長ホルモンですが、過剰に分泌されると血糖値の上昇にも影響します。これは、成長ホルモンにインスリンを抑制する働きがあるためです。
また、大人になってから成長ホルモンが異常に分泌されると、体の一部分が巨大化する「先端巨大症」という病気につながります。先端巨大症の患者の約60%は、耐糖能異常も併発するといわれているのです。このことからも、成長ホルモンの異常分泌が血糖値の上昇につながることがわかります。
成長ホルモンに関する参考サイト・参考文献
『国立国際医療研究センター・糖尿病情報センター:ホルモンの病気と糖尿病』
アルドステロン
アルドステロンは副腎皮質から分泌され、おもに腎臓に働きかけるホルモンです。腎臓によるナトリウムの再吸収やカリウムの排泄を促す働きかけをしています。この作用によって、循環血液量が増加し血圧の上昇がおこります。
アルドステロンが過剰に分泌されると、高血圧や低カリウム血症による脱力感や筋力低下、のどの渇きや多尿といった症状の「アルドステロン症」という病気をきたします。アルドステロン症では軽度の耐糖能異常を含めると50%以上に糖代謝異常がみられています。
糖代謝異常のメカニズムに関しては、インスリンの分泌異常はカリウムを補給することで、改善することがわかったことから、低カリウム血症によって細胞内のカリウム濃度が下がると、膵臓のベータ細胞機能が障害され、インスリンの分泌が低下すると考えられています。こういった作用機序により、アルドステロンの分泌異常によって血糖値の上昇が症状としてみられます。
成長ホルモンに関する参考サイト・参考文献
『国立国際医療研究センター・糖尿病情報センター:ホルモンの病気と糖尿病』
人体の構造と機能[1] 解剖生理学 (第9版) 著:坂井 建雄 岡田 隆夫 :医学書院
カテコールアミン
カテコールアミンは副腎髄質から分泌されるホルモンの総称です。カテコールアミンに含まれるホルモンはアドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンがあります。ドーパミンは神経伝達物質で、アドレナリンとノルアドレナリンの前駆体です。アドレナリンは主に心臓に作用し、心拍出量を増価させ、心拍数を上げることで血圧を上昇させます。ノルアドレナリンは主に血管に作用し細動脈を収縮させ、血圧を上昇させる働きがあります。このように、カテコールアミンは交感神経によって調節されている臓器に働きかけ、血圧を上昇させたり、心拍数を増加させたり、気管支を拡張などが起こります。
糖代謝においては、アドレナリンは直接肝臓に働きかけることでグリコーゲン分解を促進し、またグルカゴンの分泌を促すことでインスリンの分泌を抑制します。この働きによって、血糖値は上昇します。その為、カテコールアミンの分泌異常によって、高血糖をきたすことがわかります。
カテコールアミンに関する参考サイト・参考文献
『国立国際医療研究センター・糖尿病情報センター:ホルモンの病気と糖尿病』
人体の構造と機能[1] 解剖生理学 (第9版) 著:坂井 建雄 岡田 隆夫 :医学書院
甲状腺ホルモン
甲状腺ホルモンは、喉元にある甲状腺から分泌されるホルモンです。甲状腺ホルモンの作用は全身にわたり、神経、心臓、骨格筋、発育や成熟、糖代謝や脂質代謝といったエネルギー代謝調節に関わっています。甲状腺ホルモンの分泌が増加した状態を、甲状腺機能亢進症といい、バセドウ病もその一つです。
甲状腺機能が亢進すると、甲状腺ホルモンの作用によって、心拍数と血圧の上昇、全身の発育の促進や成長、成熟の促進、酸素消費の増大など、全身の代謝機能が亢進されます。また、腸管では糖の吸収が促進されます。全身の代謝が亢進していることを考えると、糖代謝とともに、エネルギーの消費も活発になると予想しますが、交感神経や代謝に関わるホルモンの感受性も亢進するため、糖の分解の方がエネルギー消費よりも活発になります。その結果、血糖値が上昇しやすく、特に食後の急激な高血糖状態をきたします。この甲状腺機能亢進症での耐糖能異常を認める割合は、30~60%と言われています。
甲状腺ホルモンに関する参考サイト・参考文献
『国立国際医療研究センター・糖尿病情報センター:ホルモンの病気と糖尿病』
人体の構造と機能[1] 解剖生理学 (第9版) 著:坂井 建雄 岡田 隆夫 :医学書院