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アディポネクチン | 糖尿病を予防する体内ホルモン

このページでは、糖尿病治療の現場で注目されているホルモン「アディポネクチン」について、上野医師に解説していただきました。

監修医師情報

上野内科・糖尿病内科クリニック

院長 上野尚彦医師

糖尿病治療の現場で注目されているホルモン「アディポネクチン」とは

近年、糖尿病の研究で注目を集めているホルモンがあります。それがアディポネクチンです。

アディポネクチンの働き

アディポネクチンとは、体内の脂肪細胞から分泌される善玉ホルモンの名称。ホルモンとは、身体の様々な働きを調節するために体内で分泌される化学物質のことです。アディポネクチンの「アディポ」とは、「アディポサイト=脂肪細胞」の略で、「ネクチン」とは「色んなものに引っ付きやすいたんぱく質に共通する接尾語」です(※注1)。

アディポネクチンは、血流に乗って全身を巡り、血管壁の傷や炎症を見つけて、素早くそこにくっついて修復してくれます。この働きから、「脂肪から生まれて、血管にくっつくもの」という意味の名前を持つのです。

血管を修復するだけでなく、高血圧や動脈硬化を予防・改善しますし、血糖を調整するインスリンの働きをよくして糖尿病を防ぐという効果があると学会で証明されており、「奇跡のホルモン」とも呼ばれています。

百歳以上生きた方のアディポネクチン血中濃度は、若い年代の2倍であることが研究成果として明らかになっています(※注2)。アディポネクチンは人間の健康にとって、とても重要な役割を持つのではないかと、世界中の研究者から注目されているのです。

アディポネクチンと糖尿病の関係

上でアディポネクチンのあらゆる効果が証明されていることを述べました。ここでは、特に糖尿病を予防する仕組みを説明いたします。

糖尿病の仕組み

まず、なぜ糖尿病になってしまうのでしょう?糖尿病はインスリンの働きの低下などで、血液中の糖の量が以上に増えてしまった状態が続いてしまう病気です。

インスリンは臓器や筋肉に血中から糖が取り込まれるのを助けたり、たんぱく質の合成を行ったりします。このインスリンの働きが低下することで、血液中の糖が利用されなくなり、血糖値が高くなるのです。

普通の水と砂糖を溶かした水では、どちらがよりドロドロとした状態になるかというと砂糖が溶けている水のほうですよね。血糖値が高い状態では、血液がドロドロになり、血管を傷つけたり血管に負担をかけます。それにより体中の血管が傷み、様々な弊害を起こすのです。

糖尿病の種類とインスリン

アディポネクチンがインスリンに働きかける

糖尿病ではインスリンが鍵となることがわかっていただけたでしょうか?糖尿病を防ぐには、インスリンの働きが正常でないといけないのです。

妊娠糖尿病などを除いて、糖尿病を大まかに分類するととなります。

1型糖尿病 十分な量のインスリンが分泌されていない
2型糖尿病 インスリンは出ているものの、血中の糖を臓器や筋肉に取り込む働きが鈍っている

1型糖尿病の場合、そもそも血糖を臓器や筋肉に取り込ませるためのインスリンが分泌できない状態です。体内でインスリンを作る代わりに、注射などで補充しなければなりません。

一方、運動不足やカロリーの過剰摂取によって肥満状態が続き、インスリンが分泌されているのに血糖を取り込めなくなっている状態が2型糖尿病です。人間の脂肪細胞からは、アディポネクチンをはじめとした善玉因子と、動脈硬化等の原因にもなる悪玉因子の両方が出ています。しかし、肥満が続くと善玉因子の分泌量が減り、悪玉因子の分泌量が増えてしまうのです。

悪玉因子は、インスリンが血糖を臓器や筋肉に送り込む作用を邪魔してしまいます。例えるなら、本来ならスムーズに糖を臓器・筋肉に送り込めるはずのインスリンが、悪玉因子に妨害されてしまうようなもの。

アディポネクチンとインスリン

このようにインスリンがきちんと働いてくれない状態のことを、「インスリン感受性が低い」「インスリン抵抗性が高い」と呼ぶのですが、アディポネクチンには、インスリンの働きを強くする作用があることが、東京大学の門脇孝教授の研究により明らかにされています。その研究によると、アディポネクチンの分泌が活発だと、インスリンが体内でより働くことがわかったということです。(※注3)

2型糖尿病の場合、インスリン自体は分泌されているため、アディポネクチンの活躍でインスリンがきちんと血中の糖を内臓や筋肉に取り込めるようになれば、高血糖によるトラブルの多くが落ち着いてくるでしょう。

インスリンをパワーアップする

アディポネクチンの分泌を増やすことで、インスリンの働きを強められ、それにより糖尿病を予防することができるのです。

上でも述べましたが、アディポネクチンには血管を修復し、血流を改善する働きもあります。これは糖尿病の恐ろしい合併症のひとつである、動脈硬化を防ぐのにも役立ちます。今後、「アディポネクチンの分泌を活性化すること」は、糖尿病や糖尿病の合併症の予防に、必要不可欠なキーワードとなっていくでしょう。

アディポネクチンと脂肪の関係

厚生労働省の『e-ヘルスネット』でも、「アディポネクチンはさらに、インスリン感受性を高めてインスリンの分泌を節約して糖尿病を防ぐ働きも担っています」と紹介されています。

ただ、注意していただきたいのは、アディポネクチンは脂肪から分泌されると説明しましたが、だからといって太って脂肪を増やせばいいというものではありません。下記のように、研究では脂肪の細胞が肥大するとアディポネクチンの分泌が低下した(※注4)とありますので注意してください。

小型脂肪細胞はインスリン感受性ホルモンを分泌してインスリン感受性を個体に付与している。その証拠に、脂肪細胞ができない状態では、インスリン感受性ホルモンの欠乏により、インスリン抵抗性が起きる。逆に、脂肪細胞が肥大するとアディポネクチンは分泌が低下し、レプチンは抵抗性が惹起され、これらインスリン感受性ホルモンの作用は低下をする。

引用:『脂肪細胞によるインスリン抵抗性の分子機構』門脇孝

アディポネクチンの効果は医学界で証明されている

本サイトで初めてアディポネクチンについて知った人は、「すごいホルモンみたいだけど、本当に糖尿病の予防になるの?」と思うかもしれません。

アディポネクチンの有効性については、東京大学大学院医学系研究科をはじめ、数多くの専門機関で研究が進められています。そこで得られた成果は論文などの形で発表されており、NHKを始めとする国内外のメディアでも、大きく取り上げられていますので、信頼性はあるといえると思います。

以下にその一例を紹介しますので、ぜひ目を通してみてください。

肥満とインスリン抵抗性発現のメカニズムの解明は、肥満に伴う生活習慣病のメカニズム解明と根本的治療法確立のうえで重要である。

(中略)

糖尿病マウスと肥大脂肪細胞を特徴とする肥満2型糖尿病マウスでは、ともにアディポネクチンの欠乏・低下が認められること、アディポネクチンの補充によって両マウスのインスリン抵抗性・糖尿病はともに改善することを認め、アディポネクチンがインスリン感受性を促進性に調節している抗糖尿病性生理活性物質であることを明らかにした。

(中略)

このように、高脂肪食による脂肪細胞肥大に伴って低アディポネクチン血症の惹起されることが、インスリン抵抗性・糖尿病など生活習慣病の重要な分子メカニズムを担っている。今後アディポネクチン経路の活性化がインスリン抵抗性・生活習慣病の治療戦略となる。

引用:『アディポネクチンと糖尿病・心血管病の分子メカニズム[pdf]』門脇孝

平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、全国9保健所管内にお住まいで、糖尿病の罹患がないことを確認した5年後調査以降の5年間に糖尿病を発症した417人と発症しなかった1197人を対象としてアディポネクチンと2型糖尿病リスクとの関係を調べました。

(中略)

その結果、血中アディポネクチン濃度が高いほど糖尿病リスクが低い、というアディポネクチンが糖尿病に予防的であることを支持する結果が、本研究でも得られました。このような観察型の研究の限界として、結果を見えにくくする様々な要因(偶然、偏り、交絡)をすっきりと排除することができないため、現時点では、アディポネクチンにどれほど糖尿病予防効果があるかは明らかではありません。そのことを検証するためには、アディポネクチンの作用を高める薬を投与するような介入型の試験など、さらなる研究が必要と思われます。

引用:『国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センターDiabetes Research and Clinical Practice May 2017, Volume 127, Pages 254–264.』

アディポネクチンを増やす5つの簡単な方法

アディポネクチンは、さまざまな方法で増やすことが可能です。一部の簡単にできる方法をご紹介しますので、さっそく今日からアディポネクチンを増やす習慣を身につけていきましょう。

1.糖質を抑えた食生活

太るとアディポネクチンが減少するといわれていますが、それは内臓脂肪が増えるとアディポネクチンの分泌が減ってしまうから(※注5)。

糖質をたくさん摂取すると血糖値を下げるホルモン「インスリン」が分泌されるとともに、脂肪が形成されてアディポネクチンの分泌も減ってしまいます。

糖質を抑えた食生活を心がけ、内臓脂肪を減らしてアディポネクチンを増やすことが大切になります。会社の健康診断等でメタボリックシンドロームの診断を受けている場合、脂肪を落として善玉因子であるアディポネクチンの分泌量を取り戻しましょう。

2.亜麻仁油など質のいい油を摂取する

アディポネクチンを増やすには、料理で使用する油にも注意しましょう。オリーブオイルなどオメガ9系の油は悪玉コレステロールを減らし、さらに善玉コレステロールを増やす働きがあります。亜麻仁油に含まれるαリノレン酸もアディポネクチンを増やすのに効果的です。

糖質を控えるなどのダイエットをしている方にとって、油は避けたい食品の一つと思われがちです。特に、真面目に食べ物のカロリーを記録している場合、1gあたり4kcalの糖質やたんぱく質と比べて、1gあたり9kcalとカロリーの高い油は心情的に食べる量を減らしたくなってしまいます。

しかし、このような体にいい油を摂取することで老廃物の代謝が促進されたり、アディポネクチンなど体にいい影響のあるホルモンを増やしてくれるといったメリットがあるのです。糖質・たんぱく質・脂質が3大栄養素と呼ばれているのは、人間が健康的な状態を維持するために欠かせない栄養だからこそ。

極端なダイエットは長続きもしませんし、リバウンドのリスクもあります。上質な油を摂取し、バランスのよい食生活を心がけることが、アディポネクチンの分泌を妨げてしまう肥満への対策になるのです。

3.食物繊維を摂取する

アメリカで行われた研究で、「食物繊維を豊富に含むオートミールやオールブランを日常的に摂取している人は、アディポネクチンの数値が高い」という結果が出ています。

食物繊維は、体の調子を整えるのに最適な栄養素として広く認識されていますが、アディポネクチンの増加に関しても効果が期待されています。

4.海藻類やごまなどからマグネシウムを摂取する

アディポネクチンを増やすには、マグネシウムもいい影響を及ぼしてくれるといわれています。マグネシウムは、「アディポネクチンを増やしてインスリンの効果を高める可能性がある」と、研究が進められています。

マグネシウムはあまり聞き馴染みがないかもしれませんが、わかめやひじきなどの海藻類・煮干し・干し海老といった魚介類、ごまやアーモンド、さらに大豆製品にも豊富に含まれています。ミネラルウォーターにもマグネシウムが豊富なものもあります。

5.青魚からEPAを摂取する

青魚に豊富に含まれていることで有名なEPA。アジ、イワシ、サバ、サンマなど、よく食卓に並ぶ食品ばかりですね。EPAは魚の脂身の部分に多く含まれているため、加熱すると溶けてしまいます。

より効率的にアディポネクチンを増やしたい場合は、お刺身など生の状態で食べるのがおすすめです。

アディポネクチンと肥満の関係

糖尿病とも関わりが深い肥満。肥満を解消することは、糖尿病を予防することになります。アディポネクチンは肥満に対しても働きかけることがわかっています。

一般社団法人日本肥満学会から発表された研究結果によると、アディポネクチンが多いと体脂肪率が低く、アディポネクチンが少ないと体脂肪率が高いという反比例の関係となります。

アディポネクチンは動脈硬化病変に抑制的に作用するアディポサイトカインで,その血中濃度はBMIおよび体脂肪率と逆相関する.アディポネクチンはdb/dbマウスやKKAyマウス,脂肪欠損マウスのインスリン抵抗性を改善することから,肥満者の低アディポネクチン血症はインスリン抵抗性の原因となり得る

引用:『アディポネクチン遺伝子多型と肥満および糖尿病

肥満や糖尿病の状態に近いマウスにアディポネクチンを投与してみると、インスリン抵抗性によってインスリンが正常に動かなくなっている状態を改善できるとのこと。

この実験を元に、日本人男性の肥満度とアディポネクチンの多さを調べたところ、アディポネクチンを多く有する人は脂肪率が低いと分かりました。アディポネクチン遺伝子が多い人は糖尿病になりにくいことが分かります。

アディポネクチンとダイエット

アディポネクチンには脂肪燃焼の働きがあるため、アディポネクチンは各メディアで「やせホルモン」として取り上げられることがあります。

運動をして身体を動かすと、脂肪を分解する酵素「リパーゼ」や筋肉にある酵素「AMPキナーゼ」が活発になり、脂肪や糖をエネルギーとして活用します。このように、運動によって脂肪が減るというのは周知の事実であり、ダイエットには運動がとても有効といえます。

ところが、アディポネクチンは運動をしなくても、これらの酵素を活性化させるということが発表されています。アディポネクチンは運動しなくても、脂肪を燃焼させるのです。

動かなくても脂肪を分解してくれ、太りにくい体にしてくれるのがアディポネクチンなのです。もちろん運動も取り入れると、さらに脂肪を消費してくれるので、高いダイエット効果を期待できます。

アディポネクチンは食欲を抑える

アディポネクチンの脳への働きに、食欲を抑える作用があります。自治医科大学の研究チームが、アディポネクチンの作用が食欲とどう変わるのかを世界で初めて明らかにしました(※注6)。

ラットに1日えさを与えず空腹状態にさせたのちアディポネクチンを投与すると、食べる量が減少したとのこと。空腹時でも食べる量が普段よりも減ったという研究結果から、アディポネクチンは食欲を抑える効果があると分かりました。肥満の解消を進めていくうえで、もっとも大変なのは食欲のコントロールです。血糖値が下がっている空腹状態でもアディポネクチンが食事量を抑えてくれるのであれば、食事を我慢するストレスによって起きるダイエット中の過食を防げるかもしれません。

これまでの肥満治療に使われる薬は神経伝達物質に繋がるため、うつ病といった副作用の心配もありましたが、アディポネクチンにより食欲に直接働きかける副作用の少ない薬ができると期待されています。

アディポネクチンは運動と同じ効果がある?

東京大学医学部の門脇教授・山内准教授の研究チームが、アディポネクチンとアディポネクチン受容体を活性化させることで、運動と同じ効果を得られる可能性があると発表しました(注7)。

研究チームは筋肉細胞で起きている代謝の仕組みを事細かに解析した結果、細胞表面にアディポネクチンがくっつくと細胞に信号が伝わり、ミトコンドリアの働きが強まったとのこと。つまり、アディポネクチンが筋肉細胞につながると、運動と同じ効果を得られるということなのです。

さらに、研究チームはアディポネクチン受容体が働かないマウスを作り、アディポネクチン低下しているマウスを作り普通のマウスと比べた結果、アディポネクチンが低下しているマウスは血糖の取り込みや運動持久力が低下していたとのこと。

ディポネクチン受容体に働きかけることで、代謝と運動持久力が高められ、脂肪酸燃焼や糖の取り込みが促されるという、運動と同じ効果が得られるという結果となりました

いかがでしょうか?糖尿病や肥満の予防改善に努めている人は、ぜひ今後のアディポネクチン研究の進展について、注目していただきたいと思います。

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