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糖尿病の予防になる筋トレ

監修医師情報

上野内科・糖尿病内科クリニック

院長 上野尚彦医師

糖尿病予防のための筋トレ

糖尿病予防に役立つ運動=有酸素運動という固定概念があるようですが、ダンベルやマシンなどを使った筋力トレーニングや自分の体重を利用した自重トレーニングも有効です。

身体内の筋量が増えることで代謝は高まり、糖尿病の原因となる肥満を防ぐことができますし、筋肉を動かすことでそのエネルギー源となる糖分を効果的に消費できるのです。

米ハーバード大学が18年に渡って行った長期調査では、「日常的に筋力トレーニングを行う群では、そうでない群に比べ、2型糖尿病発症リスクが34%低下する」という結果も出ています。(※注1)

さらに、そのなかでは「有酸素運動と筋力トレーニングの両方を行った群では、2型糖尿病発症リスクが59%低下していた」という結果も紹介されています。つまり、「筋トレと有酸素運動の組み合わせての実践」こそが、理想的といえるのです。

まずは家庭で実践してみよう

専用の設備が整ったジムでの筋トレは魅力的ですが、初心者にとってハードルが高いのも事実。そこで自宅でもできる筋トレ方法をいくつか紹介します。

屈伸運動(スクワット)

下半身と体幹の筋力を鍛えるトレーニング

  1. 両足を肩幅くらいに開いて立ちます。両手は前方に水平に伸ばします。
  2. ゆっくりと腰を落としながら両膝を曲げ、太もも、体幹で体を支えるのを感じながら、1秒~数秒程度その姿勢をキープします。両手は水平を保ち、前かがみになりすぎないようにしましょう。
  3. ゆっくりと膝を伸ばし、立位の状態に戻ります。
  4. 屈伸・スクワットを始めたての場合は無理をせず10~20回程度。慣れて来たら50~100回を目指します。
  5. 膝を深く曲げるほど負荷は高くなりますが、90度を維持が効果的です。高齢の場合やひざや関節に痛みがある場合などは浅い屈伸にし、回数も10~20回程度にします。

※ひざの関節に異常や痛みがある場合は医師に相談してからトレーニングを始めましょう。

踏み台昇降

筋肉トレーニングと有酸素運動が一緒になったトレーニング。15㎝程度の適度な段差、または運動用のステップを使って行います。

  1. 1段の段差をゆっくりと右足、左足の順番で上り、右足、左足の順番で元の立っていた場所におります。
  2. 上る時は必ず前向きで行い、壁や手すりに手を添えて、体を支えながら転倒を防ぎましょう。
  3. 左右の上り足を入れ替えながら、上って降りるを1セットとして、50回程度、時間であれば3~5分間継続して行います。

※ふらつきがある場合や、下半身の筋力がまだ弱い場合などは、他の筋力トレーニングで筋力をつけてから行いましょう。

簡単四つ這い腕立て伏せ

腕や胸周りの上半身の筋力を鍛えるトレーニング

  1. 膝をついた姿勢で四つ這いの姿勢をとります。
  2. 息を吐きながらゆっくりと両腕を曲げ、腕立て伏せを行います。
    この時に胸を開くように、胸周りの筋肉も意識をしながら行うとより効果的です。
  3. ゆっくりと10回~30回程度行います。

タオル絞り

簡単な腕の筋力トレーニング

  1. 乾いたハンドタオルを用意し、胸の前で軽く絞った状態で持ちます。
  2. 腕を前に突き出し、ゆっくり息を吐きながらタオルを絞ります。
  3. 腕全体を使って絞り、腕の筋肉を意識します。絞った状態を3秒ほどキープしたら、力を抜いて元に戻ります
  4. 20~30回程度行います。

筋トレが習慣になってきたら、チューブやダンベルを使った筋トレを取り入れてみると良いでしょう。また、量販店などでも簡単に購入可能な「バランスボール」もおすすめです。バランスボールに腰をかけながらテレビを見るだけでも、骨盤内の体幹を支えるインナーマッスルのトレーニングに役立ちます。

筋トレが2型糖尿病予防に効果的な理由

運動による血糖降下作用は、筋肉が血中のブドウ糖をグルコースとして取り込み、エネルギー消費する事で起こります。有酸素運動を行うことで得られる効果も、この筋肉の糖代謝によるものです。特に筋肉細胞分布しているGLUT4は血中からグルコースを筋肉に取り込む働きをし、筋肉の糖代謝における重要な役割を担っています。

継続的な運動によって筋量が増加すると、GLUT4も増加してグルコースの取り込みが増えることがわかっています。しかし、肥満者や2型糖尿病患者の場合は、GLUT4の量が低下していることが筋肉や脂肪組織のグルコース取り込み量の低下につながっていることが報告されています。このことから筋量が糖尿病予防やコントロールに重要な影響を与えていることがわかります。

また、筋量が少ない状態での有酸素運動では、筋肉のグルコース消費量が少なく、期待される血糖降下作用を得られず、筋力トレーニングと有酸素運動を併用した方が血糖降下作用を得られるという報告もされています。つまり、筋力トレーニングで筋量を増やすことは有酸素運動の効果を上げるために有効であることがわかります。また、筋トレ単体も有酸素運動同様に、糖尿病予防に効果があることも報告されています。

筋肉と糖尿病との関係をめぐる様々な研究

糖尿病と筋肉の関係については、大規模な追跡調査研究やコホート研究によって様々な関係が明らかになってきています。

アメリカのハーバード大学公衆衛生大学院の研究チームは、40~75歳の男性医療従事者役5万人を対象にした追跡研究データから、糖尿病やがん、血管性疾患といった生活習慣病に関わる疾患を罹患していない3万2千人を対象に、運動と糖尿病予防における関連を追跡調査しています。1990年~2008年までの1週間あたり有酸素運動量と筋力トレーニング量を解析した結果、筋力トレーニングを日常的に行っている群とそうでない群では、筋力トレーニングを行わない群の方が2型糖尿病発症のリスクが34%上がることがわかっています。また、筋力トレーニングの運動量に関しても、運動時間が長いほど糖尿病発症のリスクは減ることが報告されていますが、一方で筋力トレーニング量が週59分未満であっても、糖尿病の発症リスクは12%低下することもわかり、少ない運動量でも効果が得られることがわかっています。

また、カリフォルニア大学の調査によると、体重に対する筋肉量が10%増加すると、インスリン抵抗性の指標値は14%低下し、糖尿病予備軍の発症リスクは23%低下することが報告され、筋肉量が糖尿病発症のリスクとの関連がわかっています。

日本国内の研究では、高齢糖尿病患者の運動療法の研究も盛んにおこなわれています。その中で、有酸素運動が難しい患者に対して座ってできる短時間の筋力トレーニングを行うことで、有酸素運動と同レベルの血糖降下作用を得ることができると報告されています。

こういった研究から、筋肉量が糖尿病予防において重要であること、筋力トレーニングも有酸素運動と同様の効果を得られることがわかり、長時間の運動が難しい人に対しての運動指導や、運動療法の導入に使われるようになっています。

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