インスリン分泌細胞の増殖を促進するホルモン発見
このページでは、血糖値改善に役立つホルモン・インスリン分泌に関与する、別のホルモンについての研究を紹介しています。
アディポネクチン
血液内の糖分バランスを整えるために役立つ人体唯一のホルモン、それがインスリンです。
インスリンは膵臓から分泌されますが、糖尿病患者、或いは糖尿病予備軍の人たちの体内では分泌量が減っていたり、影響力が低下したりしています。このため糖尿病治療の現場では、インスリンの分泌を促進させる薬剤の処方や、インスリン製剤を注射するなどの治療が実践されています。
しかし近年の研究で、インスリンの分泌促進をサポートする別のホルモンがあることがわかってきました。そのひとつがアディポネクチンです。
アディポネクチンとは
小型の脂肪細胞から分泌されるホルモンのことです。血管のダメージを修復して血流改善に貢献したり、インスリンパワーを鈍らせる「インスリン抵抗性」を改善する働きがある。なお、脂肪細胞が大きくなると分泌が低下します。
近年はアディポネクチンの分泌促進を促すサプリメントなども発売されており、注目が高まっています。そんなアディポネクチンに関する、興味深い研究例があります。
慶応義塾大学在籍の糖尿病患者ではない教職員(男性390名、女性147名)を対象に、6年間の健康診断データを解析。耐糖能悪化に寄与するベースラインの因子は何かを検討した。耐糖能悪化に寄与するベースライン因子は、インスリン抵抗性指数(HOMA-IR)、インスリン分泌能(HOMA-β)、そして高分子量アディポネクチン(HMW-ADPN)濃度も含めて検討した。結果として6年後の耐糖能は、男性で悪化41名,女性で悪化14名であった。耐糖能悪化と強く相関したベースライン因子は、年齢、BMI、血糖、HOMA-IR、HMW-ADPNなどであった。結論として、ベースラインの血糖以外にアディポネクチン低値および年齢高値が耐糖能悪化の予知因子であることが示唆された。
(原著:非糖尿病男性における6年間の縦断研究で血清高分子量アディポネクチン濃度低値は耐糖能悪化の予知因子となりうる/広瀬 寛、河邊 博史、齊藤 郁夫)
上記の結果からみてもわかるように、アディポネクチンの分泌は、糖尿病の発生抑止に少なからず関わっているようです。
ベータトロフィン
続いて、2013年に発見された新しいホルモンについて紹介します。名称は「ベータトロフィン」です。
ベータトロフィンとは
肝臓から分泌されているホルモンのことです。米ハーバード大学の研究チームにより、2013年に発見されました。マウスの肝臓にベータトロフィンを発現させると、インスリンを分泌する膵臓の膵ベータ細胞の増殖が、平均17倍上昇したといいます。研究者はベータトロフィンを月1回~年1回程度注射するだけでも、膵ベータ細胞に十分な増殖活性を誘導可能で、インスリンを毎日注射するのと同レベルの血糖調節が可能だろうと考えられています。
しかし数年後に「ベータトロフィンは新しいホルモンではなく、中性脂肪の代謝制御に関わる既知のタンパク質であった」とする反論が、複数の研究グループから提出されています。
ベータトロフィンに関しては、評価が安定するまでになお一層の研究が必要となりそうです。