糖尿病予防で運動するときの注意点
このページでは、糖尿病予防改善目的で行う運動の注意点を紹介しています。
監修医師情報
上野内科・糖尿病内科クリニック
院長 上野尚彦医師
運動をする際に注意すべきポイント
運動を行う際は、一般的に以下のような注意点があります。
- ストレッチを行う:急に身体を動かすことでケガや事故を引き起こさないよう、準備運動は必要。
- 水分補給:発汗で脱水状態を招かないよう、運動の前中後に充分な水分補給をしましょう。
- 時には休息を:体調の悪い時や、気温が極端に高い/低い日は、思い切って休みましょう。
またすでに糖尿病を発症している人は、以下の特別な注意が必要です。
- サイズの合う運動靴を:糖尿病患者は神経障害を意識し、足の傷に細心の注意を払う必要あり。靴擦れを防ぐため、サイズの合う運動靴は必須。運動後も足の状態はよく確かめ、清潔に保ちましょう。
- 低血糖対策を:薬物療法を受けている人は、運動中の低血糖に注意。角砂糖やスティックシュガー、ブドウ糖/ショ糖を含む飲み物などの携帯を忘れないようにしましょう。
運動の強度と頻度は
糖尿病予防改善のための運動では、血糖値の低下、肥満の防止改善、そしてインスリン感受性の向上を目指します。運動の影響は当日から現れるものの、3日程度で弱まり、1週間程度で消失してしまいます。このため、継続が肝心。毎日が難しければ、週3回を目標に実践していきましょう。
またあまり楽な運動ばかりしていても効果はありませんが、ハード過ぎて続けるのが困難になるようでは、本末転倒。運動の強度は「少しきつい」と感じる程度を目安にしていくと良いでしょう。
運動をしない方が良い場合
糖尿病の予防改善に有効とされている運動療法ですが、以下のような人にとっては、却って逆効果となりますので注意が必要です。
- 1型糖尿病などで、血糖値が不安定な人
- 糖尿病だけでなく、心臓の機能に問題が出ている人
- 糖尿病性腎症が顕著に現れている人
- 糖尿病性網膜症で眼底出血が現れている状態の人
上記のような症状のある人でも、快方に向かえば医師の指示のもと、運動療法を再開することはできます。しかし、くれぐれも無理をしないよう心がけて下さい。
「運動はしたいけど、体力が不安」という人がいるかもしれません。そんな人は、ホルモン分泌に注目するのも一案。近年はインスリン分泌を促進するホルモンの存在が脚光を浴びています。本サイトにも関連記事を用意していますので、ぜひチェックして下さい。
日常生活の身体活動量を増やす
普段の生活にあらためて運動を加えるのは、時間がなくて大変という人も多いですね。そんな場合、まずは日常生活の中での身体活動量を増やすことを意識しましょう。
例えば
- 通勤で電車を使っている人は、1駅分を歩く
- 車を使う時は目的地から駐車場の距離を少し離して歩く
- エレベーターやエスカレーターではなく階段を使う
- 家事の中でも、掃除に拭き掃除を加える
- 家事は身体全身を使うように工夫する
こういった少しの工夫をプラスすることで、身体活動量が上がり消費されるエネルギーがアップします。また、歩数計を身に着け、1日1万歩を達成するようにすることも活動量アップに効果的です。
1型糖尿病患者と2型糖尿病患者とは?
糖尿病は原因によって、小児や若い世代に多い1型糖尿病と、生活習慣によって発症する2型糖尿病の2種類の型に分けられます。
1型糖尿病患者
1型糖尿病は、インスリンを分泌するすい臓の細胞が、ウイルス感染や免疫の異常などの原因で機能せず、インスリンが分泌できないことで発症します。
先天性または後天的に急激に発症し、比較的若い年齢で発症する傾向があります。すい臓でのインスリン分泌ができないため、インスリン注射が必要不可欠です。
2型糖尿病患者
2型糖尿病は、肥満や運動不足といった生活習慣によって、インスリン分泌の低下や、インスリンの働きが鈍くなることで発症します。食事療法や運動療法によって改善が見込めるため、生活改善が治療の第一選択です。進行すると内服薬やインスリン注射での血糖コントロールが必要です。糖尿病患者の80%以上が2型糖尿病と言われています。
薬物療法中の運動について
薬物療法中に運動をする場合は、血糖値が不安定にならないように運動量や強度、時間、薬剤の量の調節が重要です。
経口血糖降下剤を服用中の場合
少しずつ運動療法を取り入れ、様子を見ながら運動時間や量をあげます。医師の診察で、血糖コントロール指標の変化を見ながら、必要であれば薬剤を減量するなど調節をしていきます。
インスリン療法中の運動
1型、2型糖尿病ともに運動のタイミングや低血糖予防が大切です。
基本的に運動は食後に行い、運動の予定や量に合わせてインスリンの量の減量が必要です。30分程度の軽い運動であれば、インスリン量は減らさず、ビスケットなどの補食で対応することができます。運動開始直前に血糖値が低い時は、補食をしてから運動し低血糖を予防します。
運動をした日中の血糖コントロールが良好でも、夜の就寝中に低血糖を起こすことがあります。運動療法を始めたら、血糖値自己測定をこまめに行い、補食のタイミングやインスリン量調節のコツをつかんでいくことが大切です。また、尿ケトンが陽性でインスリン量を調節している場合は、尿ケトン体が陰性になるまで運動はできません。
運動が糖尿病患者にもたらす効果
1型糖尿病患者の場合、運動によってインスリンの分泌機能は回復できませんが、インスリンの働きが良くなりインスリン投与量を減らすことができます。体力維持やストレス解消といったプラスの効果も得られるので、楽しみながら適度な運動療法を実施すると良いでしょう。
2型糖尿病患者の場合、継続した運動によってインスリン抵抗性が改善し、内服による血糖降下剤やインスリンの投与量を減らせることがあります。場合によっては薬物療法から離脱でき、食事療法と運動療法での管理が可能になることもあるので、運動は積極的に行いましょう。
1型、2型糖尿病ともに、過剰な運動では血糖値が不安定になることもあります。適度な運動を継続し、血糖値のチェックを大切しましょう。